入院・通院時の損害賠償項目
ここでは、入院・通院時に発生する主な損害賠償項目(後遺障害を除いて)をご説明します。
1 治療関係費
(1) 病院の入院費・治療費
基本的には、症状固定日までの治療費は全額賠償対象となります。ただし、健康保険よりも高額の自由診療扱いが多く、後に過剰診療や高額診療、あるいは相当因果関係などが争点になり、裁判でも否定されるケースもあります。
また、入院中の特別室使用料・差額ベッド代は、医師の指示、または症状が重篤、空きがなかったなど特別な事情がない限り、自己負担となります。
(2) 接骨院・整骨院の施術費
最近は、たとえ加害者側の保険会社が接骨院等へ自賠責に代わって全額立替払いをしてくれた(自賠責との「一括対応」)場合でも、裁判では、医師の指示の有無や施術部位・回数・期間・施術効果・金額など様々な点で争われ、注意が必要です。
(3) 通院交通費
電車やバスの料金は、合理的なルートである限り請求できます。
自家用車(家族の送迎も含む)の場合も、ガソリン代1kmあたり15円は請求できます(高速道路料金は利用の必要性・合理性によります)。これに対し、タクシーは、例えば被害者のお住まいの交通の便や、怪我の症状などで公共交通機関を利用することが容易ではない場合に限られます。
2 休業損害
休業損害とは、入院・通院期間に仕事を休んだことによる収入減少分のことです。
現実の減収を基本としながらも、主婦や求職中の方でも、ある程度休業損害を請求することは可能です。事業所得者や会社役員の方(役員報酬のうち労務提供の対価部分)などは立証資料によりますので、詳細は弁護士にご相談ください。
ご相談の多い主婦の方の休業損害(略して「主婦休損))について簡単にご紹介しておくと、平均賃金センサスという統計の女性全平均年収(平成26年は約360万円)を365日で割った1万円弱の日額に休業日数を掛けて算出します。
兼業主婦でパート年収が賃金センサスよりも低い場合でも、専業主婦と同じ主婦休損の主張は可能です。ただし、日額が比較的高く、勤怠管理のような客観的証拠が得られないため、裁判では、具体的にどんな家事にどの位の期間支障があったかなどの詳細な陳述書が必要になったり、診断書・カルテなどの治療経過との整合性が問われ、通院期間を3つに分けて期間ごとに100%・50%・30%と認定するなどの技術的な工夫も行われています。
あくまで大ざっぱな目安ですが、当事務所の裁判上の和解では、通院実日数の50%程度の和解勧告がほとんどです。
3 入通院慰謝料
後遺障害と区別して「傷害慰謝料」とも呼ばれます。慰謝料は、基本的には精神的苦痛に対して支払われるものですが、多数の人身事故被害者の間で不公平(被害者の訴える苦痛によって金額に大きなばらつきが出ること)が生じないように、入通院の日数と期間という客観的要素に基づいて、慰謝料額の算定基準が設けられています。
自賠責保険基準は、迅速な保険金支払を求められるため、慰謝料の計算は、①実際に治療を受けた日数の2倍、②治療期間の日数、のいずれかの少ないほうの日数を基に計算されます。
任意保険基準は、加害者側保険会社ごとに内規で定められており、基本的には自賠責基準よりも少し高い程度です。ただし、実治療日数や少ない場合などは、任意保険基準の方が低額になり、自賠責保険基準で呈示されます。
これに対し、裁判所の基準(赤い本)では、①実治療日数について、むち打ち症等の場合は3倍、それ以外の場合は3.5倍が目安とされています。